フリーアドレスは本当に働きやすいオフィスなのか?

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多くの企業で導入されはじめている「フリーアドレス」。働き方改革の一環で、ICT(情報通信技術)を活用したワークスタイルとして注目を集めているが、導入によって仕事効率が低下してしまうケースもみられるという。今回は、フリーアドレス導入のメリット及びデメリットについて整理し、導入にあたってどのような点に注意したらよいかを掘り下げていきたい。

 

フリーアドレスとは

フリーアドレスとは、社員個々の自席を設けず、在社している社員が自由に席を選択するという制度である。外回り営業などで空いているデスクを出社している社員が利用すれば、スペースを有効活用でき、コスト削減につながるとして、1987年に清水建設技術研究所で初めて考案された。

(参考:2012/1/11付日本経済新聞電子版

 

2015年には、総務省が「ワークスタイルを変えるオフィス改革の試行的取組」を発表し、総務省行政管理局においてフリーアドレスを導入したことが話題となっている。

 

導入の背景

近年におけるフリーアドレスの増加の背景として、「ナレッジワーク(知的労働)」の促進がある。

ナレッジワーカー(知的労働者)とは、企業に対して労働力を提供するのではなく、知識によって有益な付加価値を提供する人材のことである。単に知識をもっているだけではなく、これまでの経験によって培った知識やノウハウを他の社員に共有する能力が必要とされる。境界を超えた思いがけない出会いや会話によって、新たな知識または創造力を得られる可能性は大きく、フリーアドレスはナレッジワーカーの能力を最大限に発揮させるために重要な制度であると言える。

 

フリーアドレスのメリット

それでは、フリーアドレスを導入することでもたらされるメリットについて考えてみよう。

 

オフィスコストの削減

フリーアドレスの導入により、オフィスの小規模化を図ることができる。日中不在の社員が多い会社であれば、人数分の座席を用意する必要はない。そのため、小さなスペースでより多くの社員が働くことが可能になる。また、人事異動に伴うレイアウトの変更にも柔軟な対応ができ、運用コストの削減につながる。

 

コミュニケーションの活性化

多くの人たちと交流を深めることによって、互いに刺激し合い、創造性が生まれ、モチベーションの向上につながる。共用スペースをオープンにするなど、知識を共有できる環境を作るとより効果的だ。また、近くに座ったことをきっかけに、部署や役職にとらわれないコラボレーションなどの横断的な企画が生まれることも期待できる。

 

ペーパーレス化

固定の座席がない代わりに、基本的には一人一人にロッカーが割り当てられ、書類や荷物はそこに全て収納するケースが多い。そのため必然的に整理整頓が行われ、ペーパーレス化が進むことになる。前述の総務省管理局におけるオフィス改革の結果報告によると、「個人席周辺の文書量が約8割減」「カラープリント、コピー数が約半数に」などの効果があったという。

(参考:ワークスタイルを変えるオフィス改革の試行的取組

 

 

フリーアドレスのデメリット

一方で、フリーアドレスがもたらすデメリットについて考えてみよう。

 

席が固定される

いつも仲のいい社員同士で集まったり、毎日同じ場所に座ったりすることで、フリーアドレスといいながら席が固定されてしまうケースが多くみられる。そうなると、せっかくのフリーアドレスのメリットを生かせず、無駄話によって生産性の低下を招く恐れもある。

 

本来あるべきワークスタイルを見失う

おしゃれな見た目やシステムを取り入れることに重点を置いてしまい、企業の本来あるべき働き方を見失うケースも少なくない。例えば、フリーアドレス導入に伴って設置したカフェスペースにおいて、だんだん掃除や手入れが行き届かなくなり、せっかくのスペースを持て余してしまうことなどが考えられる。新制度の明確なビジョンを社員が把握していないと、かえって働きにくくなり、仕事の効率を下げることになりかねない。

 

会社への帰属意識が希薄になる

社員の自席が設けられていないことから、「会社での居場所がない」と疎外感を抱く社員も多く、特に従来のオフィス形態に慣れてきた中高年層はストレスを感じやすいようだ。それにより、上司と部下が適度な距離感を保てず、関係が崩れてしまうことも考えられる。その結果、モチベーションの低下や会社への帰属意識の希薄化、さらには離職率の上昇にもつながることも考えられるため、注意が必要である。

 

 

フリーアドレスを成功させるために

以上のようなメリットとデメリットを踏まえ、フリーアドレス導入を成功させるためにできる対策を以下にまとめた。

 

席の固定化への対策

その日の座席をくじやルーレットを用いてランダムに決める手法を取り入れ、席の固定化を防ぐ。必然的にその日の席が決まるため、居場所がないという疎外感の軽減にもつながる。カルビー本社では、“ダーツシステム”が自動的にその日の席を決めるというシステムを採用し、完全にフリーアドレスのオフィスとなっているという。

(参考:2017/5/9付文春オンライン

 

フリーアドレス導入のビジョン・運用ルールの明確化

フリーアドレスの導入は、一歩運用を見誤ると、本来の目的から大幅にずれが生じてしまう可能性を秘めている。「何のためにフリーアドレスを導入するのか」「その後どのようにオフィスを運営していくのか」という明確なビジョンを社員に説明し、十分な理解を得ることが大切だ。具体的には運用チームの設置や、導入前の十分な話し合い、業務ごとのシミュレーションに加え、導入後も適宜アフターフォローをしていく必要があるだろう。

 

企業・職種ごとの最適な働き方を構築する

外周りの多い営業職においてはフリーアドレスは適しているが、デスクワークの多い事務職等の場合は固定席の方が有効であることが多いだろう。例えば、「マネジメントの強化とチーム力の最大化」を目指した株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)では、フリーアドレスを廃止し、部署ごとに座席を決めるという「グループアドレス」を取り入れている。

(参考:2011/11/20付日経BP社

 

生産性向上につながるオフィススタイルとして導入が進められるフリーアドレス。導入を成功させるには、見た目やシステムだけを追求するのではなく、社員にとって最適な空間とは何かを見極める力が欠かせない。また、固定の座席がないことによって、誰がどこにいるかを把握しきれず、外部からの侵入者に気づかないといったトラブルも予測できる。社員の意識(ソフト面)だけでなく、セキュリティ等の設備(ハード面)においても会社によるバックアップが必要である。フリーアドレスの導入事例を参考に、自分たちにとって本当に働きやすいオフィスとは何か、今一度考えてみてはいかがだろうか。

 

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